ベッカライ ブラウベルグ
「毎日来てくださるお客さんがいるんです。遠方からというよりは、近くに住む方を大事にしたい。」青山さんのパン作りの根底にあるのは「日々のパンを売っていきたい。」という思いだ。
実は当初、物件探しは世田谷や目黒で進めていた。だがなかなか条件に合う場所が見つからず、奥様が偶然出会ったのが南青山の物件だった。
「まさか港区になるとは思っていませんでした。家賃は高めですが、大家さんが良い方で、広さのわりに助かっています。」結果的に、この立地は店に独自の色を与えた。近隣の住民はもちろん、海外居住者や民泊利用者、観光で訪れた人までもが足を運ぶ。
「民泊のお客さんから“評判になっているよ”と聞いたこともあります。口コミの力は大きいですね。」近所に住む高齢の方が散歩の途中で立ち寄ったり、子ども連れのお母さんが話してくれたりと。地域に密着した“日常の風景”が息づいている。
青山シェフがパン職人を志した原点は、実は幼少期にさかのぼる。
小学校3年生の頃、実家の近くにあったパン屋に通い、そこの職人さんに可愛がってもらった。店までの距離はわずか50メートル。毎日のようにパンを買いに行くうちに仲良くなり、厨房に入れてもらったり、キャッチボールをして遊んでもらったりするようになった。
「厨房で遊ばせてもらったのが楽しくて。そこでパンをつくる姿を見て、“パン屋になりたい”って思ったんです。」
幼い日の体験が、パン職人を目指す夢を芽生えさせた。そしてその夢は、大人になっても色あせることなく続き、今のベッカライ ブラウベルグへとつながっている。
クリームホーン
店内には常時70種類ほどのパンが並ぶ。ハード系のドイツパンを軸にしながらも、惣菜パンや菓子パンも豊富だ。その中で人気を集めているのが「クリームホーン」である。
サクサクの生地に注文を受けてからクリームを絞るスタイルは、ライブ感と新鮮さを演出する。「出来たてを食べてほしくて、注文を受けてから仕上げるようにしました。おかげで生地の食感も保てます。」
目の前でクリームが絞られていく光景に、目を輝かせる。頬張った瞬間にクリームが溢れ、思わず笑顔になる――そんな光景が日々繰り返されている。
いまでは1日50本前後を売り上げる看板商品となり、ブラウベルグに来たらまずはこれ。とおすすめできる存在になった。一番美味しいタイミングで食べてほしいという気持ちが伝わる商品で、気取らず、誰もが手に取れる価格とボリューム感もある。そこに、お客様に寄り添う姿勢が表れている。
左:カイザーゼンメル 右:バゲット、レトロバゲット、バタール
青山シェフは“毎日買えるパン屋”であることを何より大切にしている。
「原材料が上がっても、すぐ値上げはしたくない。地域の人が日常的に来られる店でありたいんです。」
高級住宅街にあるからといって、特別な日だけに利用されるパン屋ではなく、日々の食卓で食べるパンを提供する。そこに強い信念がある。
材料に関しては、美味しいという部分を重要視している。そんな中で青山さんが選んだのはよつ葉の製品だった。
店頭によつ葉の牛乳を置いていると、「ここはよつ葉を使っているんですね。」と声をかけられ、褒められることもあるという。
「よつ葉さんはブランド力がありますよね。味も安定しているし、信頼できる。だからバター、牛乳、乳製品ほとんどをよつ葉乳業にお願いしています。」
安心感のあるブランドを選び続けることは、地域のお客にとっても”毎日買えるパン屋”であり続けるために欠かせない条件なのだ。
「パン屋は、日々の暮らしに寄り添う存在でありたい。」
その言葉の通り、ベッカライ ブラウベルグは南青山という街に根ざし、毎日の生活を支えるパンを提供している。
偶然の出会いから始まった場所で、地域に愛される店へと育ってきた。そして店頭に並ぶパンや飲料のひとつひとつが、お客様との日常をつなぐ大切な役割を担っている。
これからもベッカライ ブラウベルグは、パンとともに街に寄り添い続けるだろう。