「当店の働き方は優秀な方だと思います。労働基準法の範囲内で運営できています。」と、片根シェフは話してくれました。
飲食業界、特にパン製造の現場では長時間労働が常態化しやすい中、カタネベーカリーの年間休日は150日以上です。
その仕組みの核となるのが、「1日10時間の変形労働時間制」です。あえて1日の定時を10時間に設定し、その分を休日としてスタッフに還元。年間の総労働時間で調整することで、労働基準法の規定を遵守しながら、年間休日150日以上という働き方を実現しています。
その休暇の取り方も、夏休みをたっぷりと6週間取得したり、気温が上がりパンの需要が落ち着く6月から9月にかけては「週休3日」にするなど、季節に合わせて稼働をコントロールしています。
おいしいパンを作るためには、まず作り手が豊かで健康な生活を送っていることが不可欠。そんなシェフの想いが、このメリハリの利いた数字に表れています。
では、これほどまでに休みを増やしながら、どのようにお店を成り立たせているのでしょうか。その秘密は「徹底したロスの削減」と「営業時間の短縮」にありました。
カタネベーカリーの営業時間は、朝7時から15時まで。土日に至っては14時で店を閉めてしまいます。思い切って営業時間を短縮し、万が一残ってしまった場合でも翌日に別の商品へ加工するなど、食品ロスを減らす工夫を凝らしています。そうした無駄の削減によって生まれた余力を、スタッフの休暇や労働環境の改善へと還元しているのです。
しかし、労働環境を守るために「効率化」を極める一方で、パンのおいしさにかける手間は決して惜しみません。その姿勢が表れているのが、人気メニューの「クイニーアマン」です。
実はこのパンには、あえてブロック状の「北海道よつ葉バター 加塩 450g(ポンドバター)」が使われています。作業効率だけを考えれば、あらかじめシート状に加工されたバターを使う方がはるかに簡単です。しかしシェフは、この加塩バターをあえて自分たちで叩いて平らなシート状にし、クロワッサンのように生地に折り込んで作っています。
「昔は発酵バターを叩いて、そこに自分で塩を足して作っていた時期もありましたが、最終的にこの加塩バターを使うのが一番おいしいという結論に至りました」とシェフ。
クイニーアマンは砂糖をしっかり使ってキャラメリゼするため、生地に強い甘みが出ます。その甘みを引き締め、後を引く絶妙な“甘じょっぱさ”を生み出すためには、よつ葉の「北海道よつ葉バター 加塩」が持つ塩味の輪郭がどうしても必要だったのです。
「働く人を守るための無駄のないオペレーション」と、「絶対に譲れないおいしさへのこだわり」この絶妙なバランス感覚こそが、カタネベーカリーが愛され続ける理由の一つと言えるでしょう。
「僕らはそんなにお金があっても、死ぬ時には持っていけないので。」片根シェフのこの言葉には、お店の経営哲学が凝縮されています。利益を過度に追求したり、自分たちの懐だけを潤したりするのではなく、生まれた利益はスタッフの労働環境改善や、地域社会への還元に回しています。
そして何より、地域の人々が毎日無理なくおいしいパンを買えるよう「日常的に使える価格に抑える」という方針です。パンを手に取りやすい価格で提供したいというのは、シェフが独立した当初から持ち続けている大切な考え方の一つだと言います。
現場で頑張ってくれるスタッフを大切にし、お店を支えてくれる地域の人々へ恩返しをする。この温かな循環こそが、カタネベーカリーが持続可能で、長く愛され続ける理由の一つです。
パン作りの技術はもちろんのこと、「働く人を守り、地域に寄り添う」という確固たる信念がカタネベーカリーには根付いています。食品ロスを削減するという現代的な課題に向き合いながら、無理のない働き方と地域への愛を体現する片根シェフ。その優しさと誠実さは、今日も店頭に並ぶパンの一つひとつに息づいています。