カタネベーカリーのパン作りに欠かせない要素、それは「良い材料を使うこと」だと片根シェフは教えてくれました。しかし、シェフの言う「良い材料」とは、単に味や品質だけで判断できるものではありません。最も重視しているのは、「生産者の顔が見えること」だと言います。
「小麦にしても野菜にしても、実際にどんな人が作っているのかを大事にしています。だからこそ、生産者には直接会いに行くようにしています。」
その言葉通り、シェフは農家だけでなく、乳製品の仕入れ先である北海道音更(おとふけ)町にある、よつ葉乳業の十勝主管工場を見学したり、実際の酪農家さんの元へ何度も足を運んだりしているそうです。
生産現場の空気を感じ、作り手の想いや姿勢を直接知る。この「知る」というプロセスを経ることで生まれる安心感こそが、カタネベーカリーのパンに宿る温かさと美味しさの源になっています。生産者との直接的な繋がりを持ち、シェフ自身が心から納得した素材しか厨房に入れないという徹底した姿勢が、お客様への最大限の誠意へと繋がっているのです。
パン作りに欠かせないバターや牛乳といった素材。片根シェフがこれらを選ぶ際の基準もまた、明確で独自の視点を持っています。
「もちろん味や鮮度が良いこと、そして安定的に供給されることは大前提です。でも、それと同じくらい、牛たちがどのような環境でのびのびと育てられているかも気になりますね」とシェフは語ります。
牛乳やバターの味わいは、牛たちの生育環境や、日々口にするものによって繊細に変化します。「北海道の広大な土地と豊かな自然の中で、酪農家さんが愛情を持って牛に接している。そうした健やかなサイクルから生まれる生乳だからこそ、信頼して使えるのだと感じています。」
素材が作られる「さらに前の段階」にまで思いを馳せるのは、生産現場に直接足を運ぶシェフならではの視点と言えるでしょう。
背景にあるストーリーにまでこだわることで、カタネベーカリーのパンはより自然で、毎日の食卓に寄り添うような優しい味わいを実現しているのです。
素材の持ち味を知り尽くした片根シェフは、パンの種類によってバターを巧みに使い分けています。その代表的な例が「発酵バター」と「非発酵バター(発酵させていない一般的なバター)」の使い分けです。
「クロワッサンやブリオッシュのようなリッチなパンには、風味豊かな発酵バターを使います。うちでバターを主役にするパンは、基本よつ葉さんの発酵バターを使っていますね。あっさりしていて、くどくないのが良いんです。」
一方で、食パンやロールパンといった日常的に食べるパンには、あえて発酵バターではなく、非発酵バターを選んでいると言います。
「毎日食卓に並ぶパンには、主張しすぎず、毎日の食事にそっと寄り添ってくれるような、飽きのこない優しい味わいを目指したいんです。」
この言葉には、パンが食べられる「食卓のシーン」を想像し、それぞれのパンが果たすべき役割を明確に見極めるシェフの考えが表れています。
複数のバターを使い分けることで風味を細やかに調整し、お客様が毎日おいしく食べ続けられるベストなバランスを見極める。ここにもプロフェッショナルの技が光っています。
おいしいパンの裏側には、生産者に直接会いに行く、片根シェフの探求心がありました。そして、素材の個性を理解した上での細やかな使い分けが、多くの人々の日常を豊かにしています。