福王子シェフのパン作りにおいて、最も特徴的なのは効率的かつ論理的な「生地の組み立て」です。一から十まで全てのパンに対して個別に生地を仕込むのではなく、一つのベースとなる優れた生地を作り、そこに材料を足して派生させることで、全く異なる食感や用途のパンを生み出しています。
「生地を一から作るのは大変な作業です。計量して、温度を測り、30分かけてこねて……。でも、質の高いベースを一つ用意しておけば、そこから色々なパンが展開できるんです」とシェフは語ります。
この派生工程でシェフが重視しているのが、材料を入れる「タイミング」です。通常、パン作りでは全ての材料を最初に混ぜ合わせますが、風見鶏では生地が出来上がった後から、バターや粉をさらに練り込む手法を多用します。
こうすることで、材料が完全に混ざり合うのではなく、生地の中に「浮遊」するような状態になります。これが、食パンのような粘りのある食感とは異なる、クロワッサンのような軽やかさや、独自の歯切れの良さを生み出す秘訣なのです。
この繊細な生地のコントロールにおいて、重要な役割を担っているのが「よつ葉の脱脂粉乳」です。一般的なパン作りにおいて、脱脂粉乳は生地にほんのりとしたコクや焼き色をつけるために粉に対して2〜3%程度、ミルク風味を強調するリッチなパンであっても5%程度が標準的な配合とされています。しかし福王子シェフは、パンの種類に応じて約4〜7%という、通常よりも高い割合で使用しています。
「脱脂粉乳をしっかりと入れることで、パンの食感が『ハスキー』になるんです」とシェフは表現します 。ここで言うハスキーとは、口の中でベタつかず、さっくりと歯切れが良い状態のこと。特に、リッチな配合の生地において、この軽やかさは非常に重要な要素となります。
さらに、脱脂粉乳には技術的なメリットもあります。ベースの生地に後から粉やバターを加えて再混練する際、脱脂粉乳が酵母の働きを適度に抑える「緩衝作用」を果たしてくれます 。これにより、生地が過剰に発酵してダレるのを防ぎ、成形がしやすくなるとともに、目が詰まった心地よい食感に仕上げることができるのです。
「よつ葉さんの脱脂粉乳は品質が安定しているので、こうした繊細な調整が必要な場面でも、常に狙い通りの生地を仕上げることができます。」という言葉通り、素材がシェフの探求心を支えています。
クレセント
そんな福王子シェフの生地理論が凝縮された商品が、約1年前から販売を開始した「クレセント」です。三日月(クレセント)のような形をしたこのパンは、あえて豪華なトッピングをせず、生地そのものの旨味と食感で勝負する商品です。
「元々は、仲間のシェフから教わった製法がヒントになっています。それを自分なりに研究し、今の形に作り上げました」と振り返るシェフ。このクレセントの生地作りにも、脱脂粉乳が欠かせません。
このクレセントが目指しているのは、毎日食べられること。食べ終わったあとに重さが残らないこと。次の一口を自然に迎えられること。
だからこそ福王子シェフは、クレセントに“軽さ”という明確な役割を与えています。
その軽さは、油脂量を減らして生まれるものではなく、工程そのものを組み替えることで、設計されていると言います。クレセントの生地は、一つにまとめて仕込まずに、バターを混ぜ込んだ生地と、本ごねの生地をあえて分けています。それぞれに役割を持たせて、後から生地を合わせていくことで、生地の中でバターが一体化せず、あたかも浮いているような状態が生まれるとのこと。
あえて豪華なトッピングをせず、生地のおいしさだけで勝負するクレセント。そこには「誰にも真似できないような食感を生み出したい」というシェフの想いと、長年の経験と研究に裏打ちされた確かな技術が詰まっています。
もちろんすべてのパンをこのような考え方で製造しているわけではないですが、食感を意識したパンには、水やバターを生地の中に抱え込ませすぎないことを意識していると言います。よつ葉の脱脂粉乳は、その設計を成立させるために、必要な場面で、その役割をしっかりと果たしています。
主張しすぎない。だが、確実に効いている。風見鶏のクレセントは、そんな考え方の延長線上にあるパンです。